この記事は、薬学部での勉強の内容について知りたい方向けです。
塾の生徒によく質問される内容に、
「大学の勉強と高校の勉強の違いって何?」
というものがあります。
自主的に学ぶ、専門分野に絞って学ぶなど、色々と違いはありますが、今回は薬学部に絞って紹介したいと思います。
薬学部の勉強というと、ほとんど理科ばっかりのイメージでしょうか。
結論から言うと、半分は正解で半分は間違いです。
薬剤師国家試験の科目を軸に、薬学部の勉強のイメージを紹介いたします。


薬剤師国家試験の科目
科目の名前
薬剤師国家試験で必要な内容を列挙すると、
「物理・化学・生物」
「衛生」
「薬理」
「薬剤」
「病態・薬物治療」
「法規・制度・倫理」
「実務」
となります。
名前だけではイメージしにくいと思うので、簡単にイメージを説明しますね。
各科目のイメージ
…名前の通り、THE・理科という内容。
ただし、思考の深さは高校の比ではないです。構造式がどうのこうのとか、薬の成分を合成反応の式を考えたりするのはこの辺りです。
ちなみに国立大の薬学部は、この範囲の平均点が非常に高いです。
…暗記に偏った理科。
「植物由来の発がん物質が、どんな反応でどんな物質になって悪さするのか」であったり、「浄水場ではどんなことをしているのか」などの実社会寄りの内容です。
…高校生物の延長戦。
覚えることは非常に多く、最初は情報量で挫折します。頑張って仕組みを理解したのに、薬の名前を覚えられなかったりします。神経伝達物質の受容体の種類や、それぞれの受容体が引き起こすことを、体の部位ごとに覚えたりします。
…暗記+公式を用いた計算。
高校理科の感覚に近いです。体内に入った薬が代謝されるまでの時間を計算したりします。
…生物や薬理との複合。
一番医療薬学っぽい内容を扱います。糖尿病の治療薬とその作用機序であったり、そもそも生物の内容がわかってないと厳しいです。
…最も理系殺しの範囲。
名前の通り、薬機法(旧薬事法)であったり、麻向法(麻薬向精神薬取締法)であったり、いろんな法律や制度を覚えることになります。
…様々な分野の複合。
臨床現場で実際に必要な知識が出てきます。輸液の濃度計算が出てきたり、薬の飲み合わせの問題だったり、様々です。
高校の理科の扱い
高校で学んできた理科がどのように役立つのか、簡単に紹介しておこうと思います。
はっきり言って、生物選択が有利です。
有機化学
高校で学んだ有機化学は、そのまま「化学」の内容で役に立ちます。
高校の有機化学と一番違う点は、「暗記パズル」ではなく「理解」になることです。
エステルを塩基性で加熱するとけん化反応が起こりますが、そもそもなぜその反応が起こるのか、反応機構を理解することになります。
登場人物はもっぱら「電子」と「核」で、電気のプラスマイナスの話ばかりです。
高校時代は有機化学が得意だった人でも、好き嫌いが激しく分かれる単元になります。
ちなみに、暗記と計算問題でしかなかった「酸塩基」や「酸化還元」も、この有機化学の分野に仲間入りします。
世の中の反応は、つまるところ、電子と核の反応ですからね。
無機化学
はっきり言って、無機化学(特に暗記)の内容は国家試験であまり役に立ちません。
定性反応で色の話が少し登場しますが、国家試験で占める割合も非常に低いので、残念ながらたぶん忘却の彼方に飛んでいきます。
水酸化鉄(Ⅲ)の色とか、たぶん薬学生のほとんどが(大阪大学であっても)答えられません。
生物
生物の内容の中でも、ヒトに関すること以外の内容はほとんど使いません。
極相林?古細菌?植物ホルモン?何それ?って感じです。
「クスノキは広葉樹だよ」なんて知識も、半年も経てばすっかり忘れてしまうと思います。
その代わり、セントラルドグマなどの遺伝子のことや、ヒトのホルモンなんかについてはかなり深く学ぶことになります。
鉱質コルチコイドは「アルドステロン」、糖質コルチコイドは「コルチゾール」と名前が変わったりします。
なお、センター試験のような実験問題を読み解くようなことは、大学の勉強ではあまり登場しません。
最近の国家試験では実験やデータを読み解く問題が増えてきているので、高校生物の実験問題を解いてきた経験は、そのうち役に立つと思います。
国家試験に限らず考えると、データを読んだり考察したりすることは、研究室での研究では普通に必要なスキルです。
物理
薬学部で習う物理は、そもそも重要度が非常に低いです。
しかも半分くらいは高校の化学の内容だったりします。
熱力学の分野でエネルギーなどが登場するので、物理選択の人はその範囲でアドバンテージがあります。
逆にいうと、ほかの範囲では生物選択の方が圧倒的に有利なので、物理選択の人は覚悟しておいてください…。
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